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【アラベスク】  第6章 雲隠れ (前編)



第2節 休み明け [1]




 どうすっかなぁ〜
 なんてぼぉ〜と考えながら、机に頬杖をつく。その肩にポンと一叩き。
「休みボケ?」
 見上げる先で、ニッコリと笑う少女。その指には珊瑚の指輪。
 四月に転入してきた時は、廊下にも黒山の人だかりだった。今はさすがに落ち着いてきているが、それでも休み時間ごとに声をかけてくる生徒は後を絶たない。
 まぁ、好意を寄せてくれるのはありがたい。世の中には、異性と縁がなくって悩む輩もいるワケだから、こうやって笑いかけてくれる存在がいるという現実には、素直に感謝すべきだろう。
 だが正直、今の(さとし)にはありがたくない。
 昔から、聡はワリとモテた。
 小学校三年生の時に、親の離婚で転校した。
 別れを惜しんで、あるいはよい機会だと思ったのか、個人的に餞別をくれた女子児童がいた。意を決して胸の内を明かしてくれた子もいた。
 バレンタインのチョコレートも、毎年それなりに数はあった。
 贅沢だとは自分でも思う。
 だが聡にとって、それらの行為は、もはやいちいち胸をドキドキさせるほどのイベントでも出来事でもない。

 好意は、こちらが望む前に向こうからやってきた。
 ゆえに、美鶴(みつる)という存在に気付かなかったのかもしれない。

 テニスの試合を盗み見たあの日。己の恋心に驚愕はしたが、あまり不安は感じなかった。
 遊びに行っても、イヤな顔をされた事はなかった。嫌われていたら部屋になんて、入れてもらえなかったはず。
 だからきっと、美鶴も俺のコトを―――
 根拠のない期待と確信。
 美鶴が自分のそばからいなくなってしまうなど、考えもしなかった。

 自惚れ……… てたのかな?

 そうさせたのは周囲だと、八つ当たりするほどガキでもない。
 ただこれが、切なさなのだと自覚する。

 届かない想い。手に入れたいと想う。

 聡は、その切なさにどのような対処をすればよいのかわからない。他人の想いを自分から求めに行くなど、初めての経験だから。
 自分は我を見失いやすい人間だという、自覚はあった。
 今でもある。
 だがそんな自分を抑えたところで、ではそれに代わる術とは何なのか?
 その答えを見つけ出す前に――――
「はぁ……―――」
「どぉしたの?」
 心底心配そうな顔。少女はそれなりに可愛い。
 だが、ごめんな。俺はやっぱり、美鶴しかいないよ。
 さすが聡に傾倒しているだけはある。少女はすばやく眉をしかめると、やや声を落して呟いた。
「ひょっとして、大迫(おおさこ)さんのコトを考えてたとか?」
 否定しても信じてはもらえないだろうが、肯定すれば逆上されるかも。
 こういう時は、何も言わない方がよい。
 そう判断して、もう一度深くため息をついた時。
 ?
 一瞬にして硬直する空気。
 それほど繊細ではない聡でも読めるほどの、場の凍結感。
 なんだ?
 怪訝に思い軽く視線を動かす。教室の入り口から、原因が室内を見渡している。
「あっ」
 思わず、小さく呟いてしまった。
 美鶴っ







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